
イタリアで、一年で最も大切な日はクリスマス!
そして人々がキリストの降誕と同じくらい待ち焦がれるのが、このシーズンにしか食べられない特別なお菓子なのです。
長い歴史と伝統を守った製法のお菓子たちは、誰しものクリスマスの思い出と共にある、特別なものなのです。
色とりどりに美しく放送されたお菓子の箱を、大人も子供も一緒になって、わくわくしながら開けるのです。
イタリア人の心を温かくさせる、クリスマスの特別なお菓子…その歴史やレシピと共に、ご紹介していきましょう!
クリスマスだけの伝統的なイタリアのお菓子と、その歴史
イタリアのクリスマスシーズンは12月8日から始まり、街中のお菓子屋さんやパン屋さん、スーパーでも一斉にクリスマスだけの特別なお菓子が並びます。
このお菓子たちがないと、イタリア人のクリスマスは始まらないほど大切にされているのです。
また、南北に長いイタリアは気候の差があり、州によって様々な伝統的なお菓子があります。
中でも最も有名なものを挙げていきましょう。
パネットーネ(Panettone)
ロンバルディア州で生まれた、「大きなパン」という意味のお菓子。
1500年頃にミラノのルドヴィーコ・スフォルツァ公爵の宮廷で誕生したとされています。
卵黄たっぷりのブリオッシュ生地は、パネットーネ種という仔牛の腸由来の酵母を用いて、三日間発酵させて作ります。
生地にはレーズンや、プラム、オレンジピールなどのフルーツの砂糖漬け(フルーツキャンディ)を混ぜ込んで、ふんわりと焼き上げます。
その甘くて芳醇な香りは、やみつきになること間違いありません!
昔は貴重だったドライフルーツを使った貴重なお菓子を、キリストの降誕を待ち望む大切な時期に、ありがたくいただいたのでしょう。
クリスマスの時だけは、貧しい人々にもパネットーネを分け与えられていたそうです。
2005年には、守るべき材料の基準や製法が制定され、伝統の味が受け継がれるように制定されました。
マンマの味が大切なイタリアの家庭でも、パネットーネだけはプロのパン屋さんやお菓子屋さんにお任せなのです。
パネットーネ酵母を用いて作ると半年ほど長持ちするため、アドヴェントの期間に毎日少しずつ食べます。
そのまま食べても良いですし、ザバイオーネというカスタードクリームに甘いワインを加えたものを添えるのも伝統的です。
他にも、少しトースターで焼いて表面をかりっとさせ、生クリームやバニラのジェラートを添えてもとてもおいしいです。
世界的に有名なパネットーネのメーカーは、ミラノのスカラ座の隣にある、1817年創業のコヴァ(COVA)です。
イタリアの有名な作曲家ジュセッペ・ヴェルディも、COVAのパネットーネが大好きだったそうですよ。
パネットーネがイタリア人にとってどれほど歴史深く、愛されてきたかが感じられますね。
パンドーロ(Pandoro)
ヴェネト州の、「黄金のパン」という意味のお菓子。
13世紀にイタリアの小さな街ヴェローナで誕生しました。(シェークスピアの【ロミオとジュリエット】で有名ですね。)
卵黄たっぷりのふわふわのブリオッシュ生地は、ふんわりバニラの甘い香りが漂い、一気に幸せな気持ちにさせてくれます。
食べる前には表面に粉砂糖をまぶし、まるで雪のよう。
八角錐の形をしており、横に切るとなんと星形に!
こちらはドライフルーツは入りませんが、香りの良い、とてもおいしいお菓子です。
パン屋さんで買うパンドーロにはあらかじめ粉砂糖がかかっていますが、スーパーで買うものは、自分で粉砂糖をまぶすのですが、それもまた楽しいのです!
まず、箱を開けるとビニール袋の中に粉砂糖のかかっていないパンドーロが。
その上から、別添の粉砂糖をふりかけ、ビニール袋の口を閉じて大きく振ります!
そうすると、きれいに粉砂糖のまぶされたパンドーロのできあがりです。
子供たちがニコニコしながら袋を振っている様子は、イタリアのクリスマスの可愛らしい風物詩です。
中には、勢いよく振りすぎて底が抜け、部屋中粉砂糖だらけに…なんてエピソードも!
そんな楽しい思い出も、温かいクリスマスには欠かせませんね。
こちらも軽く温めて、生クリームを添えてもしっとりとおいしいです。
トッローネ(Torrone)
ロンバルディア州のお菓子。
冬の大切な食料だったナッツ類を、煮詰めたハチミツと泡立てた卵白に混ぜ合わせ、固めたお菓子です。
なんと古代ローマ時代から作られていたと言われ、正式なトッローネというお菓子として誕生したのは1441年、ミラノ近くの街クレモナにて。(バイオリンの産地として有名ですね!)
ミラノ公国ヴィスコンティ公爵の娘ビアンカ・マリアの婚礼の時、クレモナからは街のシンボルである鐘楼を模した純白のお菓子、トラッツォを捧げました。
それが後に「トッローネ」と呼ばれるようになったのです。
クレモナでは毎年11月の第三週の一週間、トッローネ祭りが開かれ、世界一大きなトッローネが作られ、切り売りされるのです。
貴重なナッツ類やハチミツをふんだんに使った贅沢なトッローネには、大きく分けてハードタイプとソフトタイプの二種類があります。
ハードタイプはカラメリゼしたカリカリのナッツが香ばしく(とても固いです!)、ソフトタイプはクリーム状の卵白がサクサクで優しい食感。
更に、昔々からイタリア全土で愛されるトッローネですから、地方ごとに色々な特徴があるのです。
例えば、定番はアーモンドが入ったものですが、トリノでは名産のヘーゼルナッツが、シチリアではピスタチオが入っています。
小さなトッローネという意味の「トッロンチーニ」は一口サイズで、周りをチョコレートでコーティングされています。
ドームケーキ型のトッローネもあり、スライスして量り売りもしてくれるのですよ。
ちなみに、バイオリンの産地クレモナでは、バイオリンの形をしたトッローネもあります。
他にも色々なアレンジのあるトッローネ。詳しくは後ほど、下項でご説明しましょう。
メコリン(Mecoulin)
ヴァッレ・ダオスタ州の伝統的なクリスマスのお菓子です。
パネットーネに似ていますが、より簡単に牛乳と干しブドウを使って作られたもの。
アルプスの新鮮な牛乳が豊富な町ならではですね。
生地には少しラム酒が入っており、良い香りがします。
トロンケット(Tronchetto)
ピエモンテ州の「小さな木の幹」という意味のお菓子です。
卵、バター、マスカルポーネチーズ、マロンクリーム、ブランデーを混ぜた生地に、ホイップクリーム、チョコレートクリームが入っています。
北イタリアらしく、暖炉にくべる薪がイメージされますね。
ゼルテン(Zelten)
トレンティーノ・アルト・アディジェ州のお菓子。
クルミ、松の実、アーモンドなどのナッツ類と、イチジクやレーズンなどのドライフルーツ、そしてシナモン、クローブなどのスパイスにラム酒の効いたお菓子です。
ゼルテンとはドイツ語で「たまに」という意味です。
この時期にしか作らないお菓子なので、そう呼ばれるようになりました。
ドイツでスパイスやクルミ、ドライフルーツの入ったお菓子が作られていたことを思い出しますね。(詳しくは別記事:ドイツのクリスマスマーケット)
ビッショラ(Bisciola)
パネットーネの生まれた場所、ロンバルディア州の特別なお菓子です。
イチジクやレーズンなどのドライフルーツと、クルミがたくさん入っています。
必ず精白小麦粉とライ麦粉を混ぜて使うため、少し茶色い色をしているのが特徴です。
グバーナ(Gubana)
フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の、カタツムリのような渦巻型のお菓子。
中にはレーズンなどのドライフルーツと、アマレッティやグラッパという強いお酒が入っています。
身体が温まりそうですね。
パンドルチェ(Pandolce)
リグーリア州の「甘いパン」という意味のお菓子で、パネットーネと同じように生地の中にレーズンとフルーツキャンディが入っています。
でも特別なのは、かぼちゃのフルーツキャンディとピスタチオ、松の実が入っている点です。
パンスペツィアーレ(Panspeziale)
エミリア・ロマーニャ州の「薬剤師のパン」という意味のお菓子。
昔はスパイスを薬として、薬剤師が扱っていたからなのですね。
生地にはチョコレート、ハチミツ、フルーツキャンディ、バター、松の実、そしてボローニャマスタードが入っています。
ボローニャマスタードとは、ボローニャの名産である特別なリンゴ(マルメロ)、梨、オレンジで作られたジャムのことです。
パンフォルテ(Panforte)
トスカーナ州のシエナのお菓子。
生地にはアーモンド、オレンジやシトロンのフルーツキャンディ、ハチミツと、ナツメグやシナモン、クローヴ、コリアンダー、コショウなどのスパイスが入っています。
イースト菌を入れずにふくらませない、しっとりとスパイシーなお菓子です。
リッチャレッリ(Ricciarelli)
トスカーナ州のシエナのお菓子で、アーモンドの入った柔らかいクッキーです。
バニラとシナモンがふんわり香り、やみつきになりますよ。
ボストレンゴ(Bostrengo)
マルケ州で生まれた、古くなったパンを材料に使うお菓子で、もともとは貧しい人たちの作ったものでした。
中にはクルミ、アーモンド、イチジクやレーズン、フルーツキャンディ、沸騰させたブドウ果汁が入っています。
パンペパート(Panpepato)
ウンブリア州の、「コショウパン」という意味のお菓子。
生地にはドライフルーツとチョコレート、黒コショウが入っており、甘さの中に苦みと辛みがあるのが特徴です。
パンジャッロ(Pangiallo)
ラツィオ州の、「黄色いパン」という意味のお菓子。
サフランの入った黄色のアイシングでコーティングしたもので、中にはドライフルーツ、ピスタチオ、リコッタチーズが入っています。
パッロッツォ(Parrozzo)
アブルッツォ州の、片栗粉が使われている珍しいお菓子です。
フォンダントチョコレートでコーティングされています。
カルテッラーテ(Cartellate)
プーリア州のお菓子。
プーリア州名産のぶどうを皮ごと絞って煮詰めたヴィンコット(vincotto)という甘いシロップと、アニス、シナモンの入った生地で焼いたクッキーです。
上にカラフルな砂糖をまぶします。
※ヴィンコットはお料理にも使える、風味豊かな万能調味料として、世界中で愛用されています。
ストゥルッフォリ(Struffoli)
カンパーニャ州の、フルーツキャンディの入った生地を丸めて揚げたお菓子。
揚げた後にハチミツをかけ、カラフルな砂糖をまぶします。
伝統的なのは、かぼちゃのフルーツキャンディが使われたものです。
ゼッポレ(Zeppole)
カンパーニャ州のドーナツ。
生地の中には白ワインが入っており、とても良い香りがします。
揚げた後にハチミツとカラフルな砂糖をかけます。
ペトラリ(Petrali)
カラブリア州の伝統的なお菓子です。
サブレのようなクッキー生地で、三日月型につくるのが伝統的。
この中身に入れるのは、ドライいちじくやオレンジピール、アーモンド、くるみ、シナモンやクローブなどのスパイスを細かくし、ぶどうを皮ごとしぼって煮詰めたヴィンコット(vincotto)を沸騰させ、コーヒーと混ぜた液体に、しばらく漬け込んでおいたもの。
仕上げにカラフルな砂糖をふりかけます。
クバイタ(Cubaita)
シチリア州のお菓子で、トッローネに似ているお菓子です。
ハチミツ、アーモンド、ゴマ、オレンジをカラメリゼして固めたものです。
セバダス(Sebadas)
サルデーニャ州のお菓子で、もともとは羊飼いの作るものでした。
ラビオリのようなパスタの生地に、ペコリーノチーズ(羊乳のチーズ)とイチゴノキのハチミツが入っています。
地中海に生息するイチゴノキのハチミツはとても苦く、それをペコリーノチーズがまろやかにしてくれます。
色々なアレンジが加わったお菓子たち
クリスマスにしか食べられない特別なお菓子に、大きな思い入れのあるイタリア人。
チョコレートやマルサラワイン(甘いワイン)を入れるなど、様々なアレンジを加えて改良しています。
ここでは伝統的なスタイル以外の、楽しいバリエーションやデコレーションをご紹介しましょう。
パネットーネ
近年では、中にドライフルーツだけではなく、色々なアレンジが加えられています。
更に子供たちが大喜びなのが、パネットーネを家に見立て、キリストの誕生の瞬間を表わしたプレセペです。
プレセペは、クリスマスの一大イベントに大きく関わる、大切なもの。
それをお菓子で作るなら、大人も子供も楽しめますね。
- アーモンド入り
- チョコチップ入り
- チョコレート生地
- チョコレートクリーム入り
- ピスタチオクリーム入り
- コアントロー入り
- オレンジクリーム入り
パンドーロ
伝統的なパンドーロには何も入っていないものですが、近年はアレンジが加えられたものもあります。
けれどもドライフルーツが入らないのは、その地位はパネットーネだけのものだからです。
クリスマスパーティのデザートとして、パンドーロを横の輪切りにし、星形の角をずらしながら重ねたパンドーロタワーに、生クリームやチョコレートシロップ、フルーツなどでデコレーションしたものも人気です。
クリスマスツリーのオーナメントとして飾れる、小さなパンドーロもあるのですよ。
- 粉砂糖のかわりにココアパウダーがまぶされ、生地にはチョコチップ入り
- ヘーゼルナッツクリーム入り(ジャンドゥイヤ)
- レモンリキュール入り
- ホワイト&ブラックチョコクリーム入り
- チョコレート生地
トッローネ
さすが、甘い物大好きなイタリア人!
地元で愛されてきた伝統的スタイル以外にも、好物と合わせたバリエーションを作っています。
とてもカラフルで、きれいですね!
- チェリー
- レモン
- オレンジ
- ベリーミックス
- ティラミス
- クレーマ・カタラーナ(フランス語ではクレーム・ブリュレ)
- チョコレート生地とアーモンド
- オレンジピールとブラックチョコチップ
- マスカルポーネとホワイトチョコ
伝統的なクリスマスに欠かせない、パネットーネのレシピ
イタリアのクリスマスのお菓子を、ぜひ食べてみたい!という方に、簡単にご自宅でできるレシピをご紹介しましょう。
日本でパネットーネ酵母を手に入れるのは難しいので、かわりにビール酵母で作ります。
- 小麦粉 500g
- 砂糖 220g
- 卵 4個
- 卵の黄身 3個
- ビール酵母 15g
- バニラエッセンス 小さじ1
- お湯 200ml
- レーズン 150g
- オレンジとレモンのフルーツキャンディ 60g
- 香り付けにレモンの皮
- 塩 一つまみ
- ビール酵母10gをとり、温かいお湯の中で溶かし、そこへ150gの小麦粉をふるい入れてこねる。
- 生地がひとまとまりになったら、大きめのボールに入れたままラップをし、暖かい場所で30分発酵させる。生地の大きさが二倍くらいになるのが目安です。
- 発酵した生地に150gの小麦粉と卵2個を加え、残ったビール酵母5gを加えてこねる。
- 生地がなめらかになったら、砂糖100g入れて更に混ぜ、常温で柔らかくしたバターを80g加え、再び良くこねます。
- 生地をひとまとまりにし、ボールにラップをかけ、3時間発酵させます。
- その間にレーズンを水で戻し、水分を拭きとっておきます。
- 生地を出し、卵2個と黄身3個、残った小麦粉200gをふるい入れ、良くこねる。
- 残りの砂糖120gと塩一つまみ、残った柔らかいバター120g、レーズン、フルーツキャンディ、レモンの皮を適量削り入れ、バニラエッセンスを加え、良くこねます。
- 円柱の型紙やシリコン型の中に生地を移し、3時間発酵させます。(生地が発行して大きくなり、型よりも大きく膨らむのが正解です。)
- 発酵させたら、生地の表面にナイフで✖に切り込みを入れ、少しバターを塗ります。
- 予め180度に温めておいたオーブンに入れ、45分焼きます。
- 45分焼いたら竹ぐしを刺し、中まで焼けているか確認できたら、出来上がりです!
焼きたてのパネットーネは、甘い香りで本当においしいです!
ぜひイタリアのクリスマスの味を、ご家庭で楽しんでみてくださいね。