
クリスマスの時期になると、ヨーロッパ中の劇場で上演される「くるみ割り人形」。
チャイコフスキーの三大バレエ曲と言われ、クリスマスイブのパーティを舞台とし、美しい旋律に乗せて、可憐なバレリーナたちが幻想的な世界を生み出します。
三大バレエの他の二つは以下の作品です。
- 白鳥の湖(参考:バレエ【白鳥の湖】のあらすじと感動の見どころ)
- 眠れる森の美女(参考:バレエ【眠れる森の美女】の舞台となったフランスのお城での結婚式が人気♡)
世界的に愛されるバレエ【くるみ割り人形】は、先にストーリーを知っておくことで、舞台をもっと楽しめることでしょう。
是非ご家族で、楽しいクリスマスの思い出を作ってくださいね。
くるみ割り人形とは?
ヨーロッパでは、冬が近づいてくると家庭のテーブルの上に、素敵なくるみ割りを用意するものでした。
秋に豊かに実る木の実は、ヨーロッパの人々にとって昔から冬の大切な食料でした。
ヨーロッパのクリスマスケーキに、たくさん木の実が用いられるのも、自然の恵みを讃え感謝するためなのです。
固いくるみの殻を割るための道具はたくさん発明されましたが、ドイツの兵隊さんを模したくるみ割り人形は、今もなおドイツの民芸品として有名です。
人形の口にくるみをはさみ、後ろに付いたレバーを押すとくるみが割れる仕組み。
ドイツのクリスマスマーケットでは、様々な種類のくるみ割り人形が手に入ります。
ヨーロッパではクリスマスの風物詩ともいえるバレエ組曲ですが、実は原作の物語があるのです。
原作の物語は、1816年にドイツのE.T.A.ホフマンによって発表された「くるみ割り人形とねずみの王様」。
それをフランスのアレクサンドル・デュマ親子がフランス語に翻訳したものを元に、バレエ組曲を作りました。
バレエ用に原作をかなり省略してあるためわかりやすいと思います。
もちろん、原作を知っておいた方が、よりバレエを深く理解し楽しむことができるでしょうので、最後の章でご紹介しますね。
※イギリスのチャールズ・ディケンズ著のクリスマスキャロルも舞台で取り上げられますので、あらすじを知りたい方はご覧ください!↓
バレエ組曲【くるみ割り人形】の簡単なあらすじ
バレエは二幕三場の構成で、主人公はシュタールバウム家の末娘、クララ。
クリスマスイブの夜、自宅でパーティが開かれ、賑やかなダンスを大人も子供も楽しんでいます。
魔法使いのようにミステリアスな雰囲気の漂う、人形使いのドロッセルマイヤーおじさんは、子供たちにクリスマスプレゼントを配ります。
クララは、不格好な「くるみ割り人形」をもらい、なぜかとても心惹かれるのでした。
ところが兄のフリッツがくるみ割り人形を貸してくれと取り合いになり、人形が壊れてしまったのです。
クララは自分のドレスの白いリボンを人形に巻き、夜遅くまで一人で看病してあげます。
真夜中の12時の鐘が鳴った時、なんとクララの体は小さくなり、人形ほどの大きさになってしまうのです。
するとどこからともなくねずみの王様が率いる軍隊と、それに対抗するおもちゃの兵隊たちが現われ、戦争を始めます。
おもちゃの兵隊たちのリーダーは、クララの看病していたくるみ割り人形でした。
激しい戦いの末、くるみ割り人形とねずみの王様の一騎打ちが始まります。
劣勢だったくるみ割り人形をクララが助け、おもちゃの兵隊たちの勝利へと導いたのです。
するとなんと、くるみ割り人形が凛々しい王子様に変身したではありませんか!
王子は自分を助けてくれたクララを、お菓子の国へと誘うのでした。
途中の真っ白で幻想的な雪の国では、キラキラ輝く雪の精や、美しい雪の女王が踊っています。
お菓子の国に着くと、お菓子の国の女王「金平糖の精」が二人を歓迎し、各国のお菓子の踊りを披露してくれます。
スペインの踊り(チョコレート)、アラビアの踊り(コーヒー)、中国の踊り(お茶)、ロシアの踊り(トレバック:大麦糖の飴菓子)、フランスの踊り(ミルリトン:アーモンドクリームパイ)、花のワルツなど。
甘やかで夢のような時間を過ごすクララですが、楽しい時間はあっという間に過ぎ…
気が付くと、クララは自分の家のクリスマスツリーの下で目を覚ますのです。
クリスマスイブに美しい夢を見たクララは、傍らのくるみ割り人形を愛しそうに抱きしめ、幕が閉じます。
※金平糖の精について:日本では金平糖と訳されていますが、正しくはフランス語のドラジェ(イタリア語ではコンフェッティ)。アーモンドチョコレートを砂糖コーティングしたもので、ヨーロッパではお祝いの時に配られる、おめでたいお菓子。
原作絵本のあらすじ
さて、バレエではお菓子の国から目覚めて(もしくは目覚めないまま)幕を閉じますが、原作にはその続きがあるのです。
そして、なぜねずみの王様がくるみ割り人形を狙うのか、そしてミステリアスな人形使いのドロッセルマイヤーおじさんの正体までもが描かれています。
ここでは、E.T.A.ホフマンの原作を絵本にした「くるみ割り人形」のあらすじをご紹介しましょう。(出版:ブロンズ新社、抄訳:中井貴惠、絵:いせひでこ)
ホフマンお得意の、夢と現実を行きかうような奇怪な雰囲気が特徴的です。
ドイツ語の原作の中では、主人公の少女はマリーという名前。
フランス語に翻訳された際に、なぜか母親がマリーにプレゼントした人形の名前「クララ」の響きが美しいからと、マリーのかわりに使われたのです。
バレエの物語と同じく、くるみ割り人形に心惹かれ、壊れてしまったくるみ割り人形の手当をしながら夜遅くまで一人で起きていたマリー。
12時の鐘が鳴ると、どこからともなく7つの頭を持つねずみの王様と、ねずみの大群が人形たちを襲いに来たのです。
それを向かい打つように、くるみ割り人形が指揮をとり、人形の軍隊を率いて戦争を始めました。
そしてくるみ割り人形の危機をマリーが救い、マリーは気を失います。
目が覚めると、辺りは元通り。マリーの話を誰も信じてくれません。
そこへドロッセルマイヤーおじさんが、くるみ割り人形を修理して持ってきてくれました。
ベッドに横になっているマリーに、「かたいくるみの話」を聞かせ始めます。
ある日、王様がお城の中の食べ物を荒らすねずみ達を退治するため、時計師のクリスチャン・エリーアス・ドロッセルマイヤーにねずみ捕り器を作らせました。
そのおかげで、お城を荒らしていたねずみたちを退治することができました。
ところが、それに怒ったのが魔力を持ったねずみの女王、マウゼリングスでした。
彼女の7匹の息子たちがねずみ捕り器によって退治されてしまったからです。
女王はピルリパート姫を醜いくるみ割り人形に変えてしまいました。
姫を元に戻すには、世界一固いと言われるクラカーツクのくるみを自力で割って、その実を姫に食べさせるしかないといいます。
しかもそれは今まで一度もヒゲを剃ったことのない、長靴を履いたことのない若者だけというのです。
王様は嘆き悲しみ、ねずみ捕り器を作った時計師クリスチャン・エリーアス・ドロッセルマイヤーに姫を元通りにするよう命じました。
時計師クリスチャン・エリーアス・ドロッセルマイヤーは15年間も必死にその若者を探し、とうとう従兄弟の人形細工師クリストフ・ツァハリーアス・ドロッセルマイヤーに生まれた息子、若いドロッセルマイヤーがその資格があると見つけたのです。
時計師ドロッセルマイヤーは、王様に若いドロッセルマイヤーを紹介し、もし姫を元に戻せたら姫と結婚させてくれるよう約束を取り付けました。
若いドロッセルマイヤーは自分の歯で固いくるみを割り、ピルリパート姫に食べさせることができました。
その途端、ピルリパート姫は元通り美しい姿に戻りましたが、今度は若いドロッセルマイヤーに呪いがかかり、醜いくるみ割り人形に変えられてしまいます。
若いドロッセルマイヤーはねずみの女王マウゼリンクスを倒しましたが、女王は殺された7人の息子の生まれ変わりである、7つの頭を持ったねずみの王が仇をとるだろうと言い残して息を引き取りました。
醜い人形との結婚を嫌がったピルリパート姫のために、王様は時計師と人形に変えられた若いドロッセルマイヤーを白から追放してしまいます。
くるみ割り人形から元の姿に戻るには、自分で7つの頭を持ったねずみの王様を倒し、醜い姿でも愛してくれる女性が現われなければならないということです。
そのため、今も若者はくるみ割り人形の姿のままなのです…』
マリーはその物語を聞いて、自分のくるみ割り人形こそ、その若者なのだと思いました。
それからというもの、毎晩ねずみの王様が現われ、マリーのお気に入りのお菓子や人形、洋服などを差し出すよう要求します。
さもなければ、くるみ割り人形をかじってしまうと脅すのです。
マリーはしばらく要求に応じ続けましたが、とうとう応じきれなくなり、くるみ割り人形に相談しました。
するとくるみ割り人形は、マリーに言いました。
「私に剣を貸してください。私がねずみの王様を退治します。」
マリーは兄のフリッツからおもちゃの兵隊用の剣を借り、くるみ割り人形に持たせました。
その夜、いつものように現れたねずみの王様を、くるみ割り人形は無事に倒すことができました。
この戦いによって、ねずみたちから人形の国を取り戻すことができたのでした。
そしてくるみ割り人形は、自分の城である美しいマジパン城へとマリーを連れて行ってくれました。
そこで歓待を受けるマリー。夢のような時間はあっという間に過ぎていきます。
ふと気付くと、マリーは自分の家のベッドの上で目覚めました。
あれは全て夢だったのでしょうか…?
そこへ、ドロッセルマイヤーおじさんが来て、時計を修理し始めます。
マリーはくるみ割り人形を見つめながら、ぽつりと言いました。
「私がピルリパート姫だったら、あなたが醜いからって追い出したりしないわ。だってあなたは私を助けたために醜くなってしまったんだもの…」
それを聞いたドロッセルマイヤーおじさんは、じっとマリーを見つめます。
そしてマリーはそのまま眠りに落ちていきます。
気が付くと、ニュルンベルグからドロッセルマイヤーおじさんの甥である、ドロッセルマイヤー青年が訪ねて来ていました。
マリーを見つめる凛々しく優しい瞳に、マリーは一目でその青年が好きになりました。
その夜、ドロッセルマイヤー青年はマリーの前にひざまずいて言いました。
「私はあなたの愛の言葉でやっと呪いが解けた、くるみ割りのドロッセルマイヤーです。どうか私と結婚してください。」
マリーが夢見たことが、本当のこととなったのです。
マリーはドロッセルマイヤー青年と結婚し、人形の国の王妃として、王様とマジパン城で幸せに暮らしました。
おしまい。
夢なのか現実なのか区別がつかない、最後にはマリーが夢の世界に行ってしまうという、少し不思議な物語です。
バレエ用には省かれてしまった、ホフマンの奇怪なテイストが良く表れていますね。
これで、くるみ割り人形のバレエもずっと理解しやすくなったことでしょう。
チャイコフスキーの曲も情景を思い描きながら聴くことで、より楽しむことができると思います!
ぜひご家族と一緒に、クリスマス観劇を楽しんでくださいね。