
月夜に照らされた美しい湖畔の情景を思わせる、バレエ【白鳥の湖】をご覧になったことがありますでしょうか。
ハープの調べに乗せたオーボエの切なく美しいテーマのメロディは、人々の心を掴んで離しません。
ここでは、バレエ【白鳥の湖】の簡単なあらすじと、音楽の美しさやバレエの見どころを、動画と共にご紹介していきます。
本物の白鳥が躍っているかのような華麗でロマンティックな世界を、お楽しみください!
チャイコフスキー作曲の【白鳥の湖】とは
白鳥の湖と言えば、日本の東映によって作られたアニメーション映画「世界名作童話 白鳥の湖」をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
魔法で白鳥に姿を変えられたお姫様を救おうとする王子の、真実の愛の物語です。
バレエ【白鳥の湖】は、ロシアの作曲家チャイコフスキーが初めて手掛けたバレエ曲でした。
ドイツの作家「ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウス」によって作られた童話「奪われたヴェール」を元に作曲されたため、物語はドイツを舞台としています。
くるみ割り人形も舞台はドイツでしたね。
バレエ【白鳥の湖】と【眠れる森の美女】と【くるみ割り人形】は、チャイコフスキーの3大バレエ曲と言われ、世界中で愛されています。
【白鳥の湖】は、1877年にモスクワのボリショイ劇場バレエ団によって初演されました。
しかし当時の振付師やダンサー、指揮者に恵まれず、評価は散々だったと言われており、とうとうチャイコフスキーが生きている間には認められなかったのです。
チャイコフスキーの第二作目のバレエ【眠れる森の美女】の振付を担当した、天才振付師であり演出家であったマリウス・プティバを覚えていらっしゃいますか。
プティバが、チャイコフスキーの没後2年目に振付の変革を行い、1895年に蘇った舞台が大成功をおさめたのです。
プティバのお蔭で、名作バレエ【白鳥の湖】が蘇り、現在に引き継がれているのですね。
彼の手掛けた【眠れる森の美女】も素晴らしい名作です。
バレエ【白鳥の湖】のあらすじと見どころ
この物語には、主役のオデット(白鳥)と悪役のオディール(黒鳥)が登場します。
そしてこの二役を、同じバレリーナが演じるのです。
儚く繊細なふるえるように美しい白鳥オデットと、妖艶で優雅な魅惑を持つ黒鳥オディール。
正反対な二人の役を演じ分ける点が、見どころの一つです。
また、第三幕のオディールの超絶技巧として32回連続のフェッテ(黒鳥のパ・ド・ドゥ)も注目したいところですね。
物語のラストには二通りあり、初版やプティバ版は恋人たち二人ともが命を落とし、天国で結ばれる悲劇で終わります。
その後1937年のメッセル版以降、恋人たちの愛が悪魔に打ち勝ってハッピーエンドになるバージョンも広がりました。
ここでは、初版の悲劇的なあらすじをご紹介しましょう。
上の動画も初版のラストシーンです。
- オデット:悪魔の力で白鳥に姿を変えられてしまう、美しい姫
- ジークフリート:オデットに愛を誓う王子
- ロットバルト:オデットを手に入れようと、白鳥に変えてしまう魔法使い
- オディール:ロットバルトの娘。黒鳥
- 王妃:ジークフリートの母親
- 白鳥たち:オデットを守るように踊る
【序奏】
オデットが花畑で花を摘んでいます。
そこへ現れた悪魔ロットバルトがオデットを気に入り、自分のものとするために白鳥に変えてしまいます。
【第一幕】
ジークフリートの成人式のお祝いをするため、友人たちが集まって宴を開いています。
そこへ王妃が現われ、ジークフリートに「明日の舞踏会で花嫁となる女性を選びなさい」と言います。
周りにいた者は喜び、祝福の踊りを披露します。(パ・ド・トロワ)
しかし王子は愛してもいない女性を選べないと悲しみ、友人たちを伴って白鳥の住む夜の湖へと狩りに出かけました。
【第二幕】
白鳥たちが泳ぐ静かな湖。
月の光が照ると、白鳥たちはたちまち美しい娘の姿に変わっていきました。
中でも一際美しいオデット姫に、王子は一目で恋に落ちます。
そして魔法使いによって白鳥に姿を変えられたオデット姫は、夜だけ人間の姿に戻れることを打ち明けます。
呪いを解く方法は、未だ誰も愛したことのない男性が、真実の愛を誓うことでした。
王子はオデット姫を救うことを誓い、明日の舞踏会にきっと来るよう、オデットに伝えたのでした。
【第三幕】
ジークフリートの成人を華麗に祝う、王宮での舞踏会。
オデット姫の姿を待ち焦がれるジークフリートの前に姿を見せたのは、黒いドレスに身を包んだオデットにそっくりで妖艶な女性。
彼女はオディール、悪魔ロットバルトの娘でした。
ロットバルトはオデットを手離すまいと、オディールを魔法でオデットそっくりに似せ、ジークフリートを情熱的に誘惑させたのです。(黒鳥のパ・ド・ドゥ)
王子は魔法に騙され、オディールに愛を誓ってしまいます。
その様子を見てしまったオデットは嘆き悲しみ、湖へと帰って行きます。
悪魔ロットバルトの罠にはまったと気付いた王子は、オデットを追って湖へ向かいます。
【第四幕】
悪魔の罠で愛の誓いが破られ、もう人間に戻れず王子とも結ばれないと嘆くオデット。
ジークフリートは自分の愚かしさと悲しみの中、何とかオデットを取り戻したいともがきます。
しかし悪魔ロットバルトは呪いはもう何をしても解けないのだと、勝ち誇るのです。
オデットは嘆き悲しみ、天国でジークフリートと結ばれるよう、人間の姿のまま湖に身を投げます。
王子も永遠の愛を誓い、後を追うように湖へ身を投げるのです。
命をかけた二人の深い愛の力は悪魔ロットバルトを打ち破り、悪魔は滅びます。
残された白鳥たちが見守る中、天国で寄り添う二人が浮かび、幕を閉じます。
関連作品
【白鳥の湖】に関連する作品としては、ワーグナーのオペラ【ローエングリン】が挙げられます。
【ローエングリン】の中でも、悪い魔法によって白鳥に姿を変えられた善良な人物が描かれているのです。
ワーグナーに心酔していたバイエルン王国の国王ルートヴィッヒ2世は、【ローエングリン】の世界を表現した城を建設するまでに至りました。
それがドイツ語で「新しい白鳥の城」という意味を持つ、有名なノイシュヴァンシュタイン城でしたね。
そしてもう一つ、【白鳥の湖】をテーマにした映画をご紹介しましょう。
ブラック・スワン
ナタリー・ポートマン主演の、2010年に作られたサイコスリラー映画です。
【白鳥の湖】では、一人のバレリーナがオデットとオディールを演じわけなけらばならないとお話ししましたね。
この映画では、その演じ分けに苦しむバレリーナが、主役争いのプレッシャーに飲みこまれ、徐々に精神が崩壊していく様を描いたものです。
可憐で繊細な白鳥と、妖艶で官能的な黒鳥の両方になりきって表現することの難しさと苦悩を、見事に演じきったナタリー・ポートマンには賞賛の嵐でした。
ロマンティックな【白鳥の湖】の中に蠢く邪悪な艶美がまた、観客を魅了するのでしょう。
バレエ作品は演出家によって様々に形を変えますので、その違いを楽しむのも一興ですね。