
民族衣装とは、ある土地や民族特有の衣服であり、その土地の気候や風土、文化や伝統の息づいた伝統あるものです。
そこには歴史や宗教観、民族独特の美意識が表われ、私たちを楽しませてくれます。
最初は自然に発生した衣服であり、単純ながらも気候に適合した、実に機能的なものでした。
それが時代を経て社会が豊かになるにつれ、美しい意匠の装飾が施され、貧富の差が表わされるようになります。
それでは、ヨーロッパの主な国々の民族衣装を見てみましょう。
北ヨーロッパの民族衣装
ノルウェー
ブーナッドと呼ばれる民族衣装は、現在では主に冠婚葬祭の場で用いられます。
ノルウェー南部では黒を基調とし、西部では赤や白、北部では青や緑…というように、地域によって色や刺繍デザインなどが異なります。
その数はなんと200種類にもなり、ブーナッドを見るだけでどこの地方出身かわかると言われています。
5月17日のナショナルデーでは、多くの人々がブーナッドを着て集まってパレードに参加するため、色々なブーナッドをご覧になりたい方は是非この日に滞在してみてくださいね!
フィンランド
伝統的な民族衣装はカンサリスプク。
白いシャツにベスト、エプロンにスカートというのが、典型的な女性の衣装です。
地域によってデザインが異なりますが、全てに通じるのは長くて白い靴下と、飾りのない白い下着を身に付けていること。
現在では主にお祭りやお祝いの時に着用します。
12月6日のフィンランド独立記念日には、カンサリスプクを着ている人を見ることができますよ。
スコットランド
男性用の有名な民族衣装、キルト。(スカートと呼んではいけません!)
このチェック模様は、実は「タータン」という、日本でいう家紋の模様なのです。
一枚のウール地の布を腰に巻き付け、後ろ側はプリーツ状にたたみ、ベルトで留めていました。
日本人ほどの体系でも長さは8m、体格の良い人だと13mにもなる長い布地を巻いているので、寒いスコットランドでも温かく、寝る時には毛布のようにできたり…と機能的でもあります。
現在でもスコットランドの精神を表わす誇りとして、お祝いやお祭りの時に着用されます。
東ヨーロッパの民族衣装
ポーランド
東西ヨーロッパの中継点として、様々な他民族国家であった歴史から、他国の影響を受けた民族衣装となっています。
女性のボディスというコルセットのような衣服は、前身ごろをリボンやボタンなどで締め上げるもの。
ドイツの民族衣装にも見られます。
色鮮やかなスカートとエプロンは、北ヨーロッパも同様ですね。
男性の衣装はトルコの影響を受けており、外套や飾りのある帽子なども有名。
現在では日常では見られず、地方合唱団などで見られる程度です。
ウクライナ
刺繍が美しいソロチカ。
通常よりも細い糸を使ってつくった「高級な布」という意味が込められています。
女性は刺繍のシャツ、スカート、コルスレ(今のコルセット)またはベストと伝統的な靴が伝統的な民族衣装です。
魔除けのビーズのネックレスをつけ、頭には花やリボンで作ったヴェノクという冠を飾ります。
面白いのは、地方ごとに違う刺繍のデザインは飾りだけでなく、魔除けでもあるということ。
病気や悪霊などが外から入ってこないよう、袖や襟元、裾などの外との境目には、念入りな刺繍が施されます。
男性はシャツとズボンに布のベルトを巻きます。
シャツには女性同様の刺繍が施されていますが、魔除け用ネックレスを男性はしないかわりに、胸元にはよりしっかりと魔除けの刺繍が施されているのがわかりますね。
ウクライナの首都キエフには、ソロチカや刺繍生地、民芸品などが展示される「イワン・ホンチャール博物館」があります。
特徴的なのは裏表共に刺繍が美しく出ていること。
そのデザインは200種類以上、ソロチカの模様は数千パターンがありますので、足を運んで様々なデザインを目にするのも、楽しいですね。
西ヨーロッパの衣装
フランス
ドイツとフランスの国境近くにある、アルザス地方の民族衣装です。
大きなリボン型の髪飾りがとても可愛いですね。
赤いスカートと、刺繍の入った黒いエプロンとのコントラストが素敵です。
男性は帽子、ジャケット、ズボン共に黒で、ベストが赤。
つい最近まで、アルザス地方の田舎では教会の礼拝にも民族衣装を着る人がいましたが、今は村の祭りやイベントの時のみとなっています。
ちなみにアルザス地方は、ジブリの「ハウルの動く城」の舞台となっています。
オランダ
女性は帽子、ベスト、長いスカートにエプロンを身に付け、特徴的なのは地方ごとに異なるスカーフや帽子です。
この帽子はオランダで伝統的な刺繍編みによって作られています。
風通りも良く、軽くて機能的ですね。
ドイツ
ディアンドルという名前の民族衣装で、語源は「娘さん、お嬢さん」という意味。
女性は襟の深い白いブラウスに、ボディス(コルセット)、スカートにエプロンという衣装です。
エプロンの結び目が左前ならば未婚、右前ならば既婚という意味を表わすなんて、面白いですね!
もともとは労働着として生まれましたが、その後ベルベットなどの高級な生地で仕立てられ、刺繍などが施されるようにもなりました。
現在は五月祭やオクトーバーフェストなどの伝統行事で着用されます。
南ヨーロッパの民族衣装
スペイン
スペインの女性で思い浮かべるのは、フラメンコ!
その衣装はもともと民族衣装でした。
中でもパタデコーラという、裾の前は短く、後ろ側が長くなっているものは有名です。
そしてスペインの男性は…闘牛士を思い出しますね。
これも民族衣装からきています。
男女ともに赤や黒に金色の色使いと、フリルを多用したデザインがドラマティックですね。
ポルトガル
特徴的なのは、美しい刺繍が全体に施されたエプロン!
白いシャツに白い靴下が伝統です。
イタリア
イタリア南部のサルデーニャ島の民族衣装。
村や町によって特徴がありますが、基本的には純白のヴェールに豪華な刺繍の施されたベスト。
豪華で煌びやかな中に清楚さがあり、そのバランスの良さは、さすがイタリアです。
今でもイタリアンファッションはゆるぎない地位を確立していますね。
サルデーニャ島にはお祭りが多く、年間2000ものお祭りが各地で開かれ、その際には民族衣装を着た人々が大勢集まります。
古き伝統を大切にする、南イタリアらしいですね。
例えば5月1日ペストの終息を祝う伝統的なお祭り(聖エフィジオ祭)には、民族衣装を着た人々が聖エフィジオ殉教の地であるノーラまで行進します。
バチカン市国
イタリアのローマ市内にある、バチカン市国。
そこにおられるローマ法王を護衛するのは、16世紀からスイス傭兵と決められていました。
スイス傭兵は、当時ヨーロッパ内で無類の強さで知られていたためです。
その武力の強さは今もなお信頼があり、スイス通貨(スイスフラン)の為替の強さにもつながっているのです。
スイス傭兵の衣装は、かのミケランジェロがデザインしたものを今でも引き継いでいるというのですから、驚きですね!
皆さんもバチカン市国に行かれたら、すぐにご覧いただけることでしょう。
世界の独特な衣装一覧
インド
インドの女性の衣装といえば、サリーですね。
これは現在でも多くの方が着ています。
涼しく乾きやすく、インドの過酷な風土に適しているためでしょう。
サリーとは、サンスクリット語で「長い布」という意味。
幅1m、長さ5mの布を巻いて着用するのですが、その巻き方は州や用途に応じて変わります。
煌びやかで、とても女性らしく美しいですね。
ベトナム
ベトナムの民族衣装、アオザイは有名ですね。
「アオ」は上衣、「ザイ」は長いという意味です。
18世紀に清朝からもたらされたチャイナドレスを起源とします。
チャイナドレスのようにスタンドカラー(チャイナカラー)の長い上着には、腰までスリットが入り、長いパンツを合わせます。
体に沿う衣装のため、何十箇所も採寸してオーダーメイドで作ります。
衣装を長く使うため、アオザイに合う体型を維持する習慣があるそうです。
男性用のアオザイもありますが、結婚式や伝統芸能などにしか用いられません。
トルコ
カフタンという、女性はチュニック風の民族衣装です。
トルコは気温が高く、砂地が多いため、熱や砂から身を守るためにあまり肌を出しません。
イスラム教の人が多く、女性は髪を隠します。
世界には様々な民族衣装があり、色彩感覚も様々だったと思います。
そして日本にも民族衣装である着物があります。
他の国で失われつつある民族衣装を知ると、私たちも着物を大切にしたいと思い起こされるのではないでしょうか。